『私は猫おばさん』 玉木恭子
〈ねこ新聞〉の12月号ににゃんこさんのエッセイが
載っています。
『私は猫おばさん』
この地区で十年、私はノラ猫たちに餌を与え、面倒をみて
暮らしてきた。
早朝と夕暮れ、地区の数か所で餌を配りながらの十年、いつ
しか街の人々にも覚えられ、「猫のおばさん」と呼ばれるよ
うになったのである。
我が家の二匹(これも捨て猫だった)に食事をさせたあと、
私は六つのお皿に餌を盛り、地区の四か所をまわる。六匹の
猫たちは、私の足音を察知し、転がるように飛び出してきて
甘える。一匹ずつ抱き上げ、少しのスキンシップをして皿を
置く。
孤独に暮らすこの子たちの至福のひとときなのである。ゴロ
ゴロと喉を鳴らし、餌を食べる姿はいじらしく、一食として
欠かすことはできない。大風の日も大雨の日も、濡れながら
まわる足元に寄ってくる彼らもずぶ濡れである。
傘を差しかけ、タオルで背中を拭き、食べ終わるまで待って
いるが、年をとった私にはいささか辛い時間でもある。
中傷され、正面から罵られ、ハウスを破壊された時期もあった
が、ここ数年は少しずつ地区の人々から理解されたのか、優し
い声のかかることが多くなった。
捨てられた小さな命を見捨てることはできない。
『猫の神様に呼び出されたのだな』
こんなことを思いながら、七二歳の私は今日もノラたちの潜む
草むらを巡って歩く。
玉木恭子